愛罪
深く悲しんで心を閉ざしているわけではないけれど、少なくとも僕より滅入っているはずの葉月さんは何も言わず、お通夜の準備や参列者への訃報を伝えてくれた。
きっと、僕のことなど一ミリも好んではいないはずなのに。
(とりあえず、真依子を探さないと…)
クローゼットから出した喪服に着替えると、僕は電気もつけずにいた自室をあとにした。
部屋は防音だと伝えたのに、真依子はなぜあのとき母親の部屋がどこかと聞いたのだろう。
あの瞬間は気にもとめていなかったが、ふと思い返せば引っかかる。
ピアノの音色が漏れないのだから、自分が出す甘い声が漏れないことくらいわかったはずだ。
ただの疑問であったのだろう、きっとそう。
あの短時間でふたりに何かがあり、母親が自殺しただなんて、結びつく理由などこの世に存在するはずがないのだから。
お通夜まではまだ時間がある。
しかし、真依子の手がかりはない。
葉月さんのいない家を出て、雨でも降りだしそうな薄曇った空を仰いだ。
同調していた。やっぱり、空は。
ひとり先に逝くなんて、言ってくれれば僕だって頷きもせずついて逝ったのに。
僕の素直じゃない性格は、どうやら母親譲りらしい。