愛罪
「うーん…どうだと思う?」
好き。
自信はなかった。
果たして、僕は母親が好きなのだろうか。
嫌いかと聞かれれば首を横に振れる自信はあるけれど、好きかと聞かれれば返答に困る。
好き、嫌い、好き、嫌い。
きっと紙一重なのだけれど、曖昧に返してしまったのは瑠海から僕がどう見えているのか、少し興味があったからかもしれない。
「好きだとおもう!」
「…どうして?」
即答した瑠海に首を傾げてみせると、彼女は嬉しそうに僕を見あげ、言った。
「ママの子供だから!子供はね、みんなママが好きなんだよ!」
祖母からの言葉か、はたまた近所の友人からか、思わずどきりとさせられるセリフを紡いだ瑠海。
“あ、アリさんだ!”と、僕の手を引いて道の端へ向かう彼女は、もうその話題のことなどすっかり忘れただろう。
そばにしゃがみこんでアリの行列を見つめる姿を、僕は微笑ましく見守る。
母親の子供だから、子供は母親が好き。
幼い頃はあたり前だったそれが、体や心が成長するにつれて薄れていったのは事実かもしれない。
好きだった。昔は僕だって、母親が。