はなおの縁ー双葉編ー
神田町に入ってすぐにしたことは腹ごしらえだった。

彼の持論は、本を探すのは偉く体力のいることだから、まず腹ごしらえをしてから、というものだ。

また、本屋のはしごをしているときは食べ物を口にしないとも言っていた。

「ここへはもうすいぶん通われているんですか?」

町の様子は、いたるところに本屋や古本屋が立ち並んでいて、意外にも学生が多く出入りしていた。

「うん、一高時代からね。金はないからひたすら歩いて通って、古本ばかり漁ってるよ。でも、おかげで、店のおやじさんらには顔を覚えてもらっているから、安く譲ってもらえるようになったよ。」

彼の行きつけの蕎麦屋へ入り、二人とも盛りを頼んで待っているときの話だ。

「わあ、すごいなあ。あたしは古本屋という考えはなかったから、もっぱら学校の図書館通いばかりでした。」

女の子の行動範囲ではここまで通うのはちょっと無理だった。
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