17-甘い君たち-


「_____南緒」


俺が小さくそう呼ぶと、南緒の華奢な背中が少しだけ揺れた。そして、俺の方へと振り返る。


「……翔太」


ポトリ、と。南緒の涙が床へ落ちた。
南緒が、小さな肩を震わせて、泣いていた。

その瞬間、俺は頭に血がのぼって、目の前が真っ白になった。気づけばクソ野郎の胸元を掴んでいて。

……だって南緒が、泣いてる。
強がりで、弱さを滅多に見せようとしない、あの南緒が。


「……おまえ何した」

「……見られたくなかったんだろ」

「は?」

「おまえに、お前たちに、見られたくなかったから泣いてるんだよ、南緒は」

「は、なんだそれ、」

「おまえらがいたら、南緒は自由になんてなれない。幸せになんて、なれない」



_____ふざけんな。


ガッ、と鈍い音がして、クソ野郎が本棚へと倒れた拍子に何冊かがバサバサと落ちてきた。

驚いた南緒が俺の手を、掴んだ。その手はひんやりと冷たかった。


「やめて、翔太……。」


やめて、と。泣きながら言う南緒の手を俺は振り払う。自分でも驚くくらいイラだって、止まらなかった。


「なんであいつを、庇うの?」


俺はもう、南緒のことも自分のことも、わかんねーよ。

< 37 / 150 >

この作品をシェア

pagetop