4*1133322〜ダイスキ〜




そして、気がついたら。


右に居たはずの叶哉が居なかった。

甲高いブレーキ音と、わけがわからなくなって出た私達の掠れた悲鳴。


車が走った跡には、血。

車は、ハンドルがきいていないみたいで、しばらくすると電柱にぶつかった。


おっきい地震が来たみたいな地響きがして、固く目をつむった。

地響きの反射ででもあったけど、目を開けるのが怖かった。


きっと、目をあけたら想像通りだろう。



耳のそばでは、璃紗の声や言葉にならない声が。

ゆっくり、ゆっくりと開く目。


静かな空気の光が、憎くも目に差し込む。

視界には、無造作な赤色がそこらじゅうに飛び散っている。


車の真ん前のガラスに、叶哉の髪の毛がへばりついている。

想像を、絶した。


涙なんか出なくて、頭がぐちゃぐちゃにこんがらがって、整理が追いつかない。

「叶哉…叶哉…叶哉…叶哉…叶哉」


壊れたお人形みたいに、叶哉の名前をぶつぶつと呟く。




重力がおかしくなったと思うと、ぐらりと視界が揺れて真っ青な冬空は、掻き回される。



そして、意識を手放した。


< 5 / 9 >

この作品をシェア

pagetop