妖(あやかし)狩り・参~恋吹雪~
「馬鹿! やめろ!!」

 わたわたと、呉羽が暴れる。
 傍(はた)から見たら、恋人同士のじゃれ合いに見えなくもないが、実際のところ、この二人は主従の関係だ。

 男は、使いこなせるものもそういないほどの、凄まじい妖気を秘めた妖刀・そはや丸。

 そはや丸は、使い手の身体に直接取り憑く。
 主に値しない者は、その時点でそはや丸に生気を吸われて塵になる。

 また、何とか塵になるのを免れた者でも、そはや丸がその者を認めなければ、そはや丸は自らの意思で、主の身体の、己が取り憑いた部分を切り離す。
 そはや丸が取り憑いた場所によっては、主はそれで命を落とすことになる。
 そはや丸の主となることは、容易なことではないのだ。

 暴れる呉羽が、ぶん、と右腕を振る。
 露わになった右腕には、痣のように紋様が浮かんでいる。
 それこそが、そはや丸との契約書とでも言うべき、彼の紋様だ。

 気に入らなければ容赦なく主を喰い殺すそはや丸だが、己よりも小さな呉羽とは、もうかれこれ十年ほども共にある。
 そはや丸曰く、それはあくまで『呉羽が自分よりも強いから』だそうだが・・・・・・。
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