How to KISS

 チンッという品のある音が鳴り、エレベーターが38階へ着いたことを知らせる。

エレベーターホールを出て、右へ41歩の左手に[RM.3802]と記す赤銅色のプレート。

カードキーを差し込みピッと認識する音は今日も同じだった。


 ドアが閉まりきる前に私の背中のファスナーは開いていた。

苦しい、苦しい、苦しい。

息が、できない。

重力に従順なそれはストンと綺麗な音と共に落ちた。

けれど、それは気にせずブラジャーのホックをはずし、ガーターベルトとストッキングは無理やり剥ぎ取り、ショーツのサイドのリボンを親指と人差し指でつまみ左右一気にといた。

やっと。
少し、楽になる。

水に溺れて息ができない感覚よりも、何かに締め付けられて苦しくて仕方がないような、その衝動。

まだ、締め付けられている。

向かうのは猫脚の美しいドレッサー。
コットンに含ませたリムーヴァで念入りに隅々までネイルを落とす。


これで視界に入るルージュは全て消えた。

ああ、やっと肺が動き出してくれたみたい。


< 7 / 11 >

この作品をシェア

pagetop