ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-

だけど、明日の試合を控えて緊張しているんじゃないだろうか。

少しでも緊張を緩和しようと、私にこんな話をしているんだとしたら。


私にできることは。



「ハットトリックって」



頑張って、と激励しようと口を開きかけた矢先。

一瞬早く宏之が言を紡ぐ。

半開きになった唇を再び結ぶ。



「ハットトリックって、聞いたことある?」

「え、わかんない」



宏之がサッカー部に所属しているとはいえ、私自身、サッカーはあまり詳しくない。

プレー方法とかの根本的なことは理解している。

でも、ロスタイムってなんだ、と訊ねるくらいの浅い知識でしかない。


野球なら、父がシーズン中にプロ野球中継をよく観戦している。

その影響もあってか、そっちのほうがルールとかに詳しいほどだ。



「ハットトリックって、もとはクリケットっていうスポーツから来てる言葉なんだ」

「へえ、そう」

「ひとつの回のうちに3球で3人の打者をアウトにすることを、ハットトリックっていうんだけど、これを達成した投手に帽子が贈られたことによるものなんだ」

「それ、サッカーと関係あるの?」

「あるよ。サッカーでは、ひとりの選手が1試合に3点以上ゴールを決めることだよ」

「難しそうだね」

「そうだね、プロでもなかなかできるもんじゃない」



なかなかのハードルの高さがうかがえる。

でも、なんでサッカーの知識がほぼ皆無の私に、ハットトリックなんていう用語をわざわざ教えたんだろう。

そう考えかけた時、同時にひとつの結論に至りそうになる。


まさか、宏之は明日の試合で……。

そんな。

プロでさえ達成するのはひどく困難なはずなのに。


どうして。

< 23 / 103 >

この作品をシェア

pagetop