ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-

陽平が怪訝そうにこちらを振り返る。

脱いだコートをハンガーにかけると、クローゼットのドアノブに吊っかけて。

部屋の中ほどに据えているローテーブルに、郵便物を無造作に放る。



「メールしたよ」

「いつ?」

「ついさっき。思ったより早く仕事片づいたし」

「地下鉄乗ってる時でしょ、受信に気づかないよ」



通勤には地下鉄を利用している。

だけど、地下鉄内では走行中は圏外になる。

そんな時にメールを送ってこられても、確認のしようがない。


陽平とつきあってからはふだんから部屋を整頓するようにしている。

急に来られたところで困ることはないといえば、ないけど。


でも、やっぱり調子が狂う。

手に提げたスーパーのレジ袋を見やる。



「お弁当、買ったのに」



ひとりぶんの食事をつくって、ひとりで食べても味気ない。

残業で遅くなる時は、帰ってからつくる気力も残っていない。

スーパーで惣菜や弁当を買うことが多い。



友人の結婚式の二次会で知りあった陽平とは、その場で連絡先を交換しあって。

何度か食事に誘われるうちに、つきあいに発展した。

2年になる。

つきあいも長くなれば、気兼ねしなくていいぶん、楽は楽だ。


だけど、陽平との間にいまだに結婚話が出ない。

私自身、焦りはじめている。

もう28だ。

せめて、30までにはなんとかしたい。

結婚とまではいかずとも、婚約でいい。

なんらかの安心できる形が、ほしい。


このまま陽平と結婚できないなら、見切りをつけて次の相手を見つけたほうが、早いんだろう。

そう思う反面。

会社は中年男性が多くて、今さら出会いなど見込めない。

陽平に別れを切りだしたところで、次の相手が見つかる保証はどこにもない。

だから、つきあいを続けるしか、選択肢はないのに。



ため息を押し殺す。

< 3 / 103 >

この作品をシェア

pagetop