ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-

うわ、と大声をあげる声が聞こえた。

宏之が目を見開いて私を見ている。



「もうグラス、空じゃん。おまえってアルコール強いほう?」

「どうかな」

「どうかなって、なんだよ」

「宏之はどうなの?」

「俺はまあ、飲むのも仕事のうちだからね」



さっき、営業をしていると話していた。

クライアントと飲む機会が多いんだろう。



「接待?」

「うん。経費削減で接待自体、少なくなってきつつあるんだけどさ、つきあいってのがあるし」

「今も東京だっけ?」

「そうです、ずっと東京なんです」



ずっとということは、高校を卒業してからずっとという意味だ。

東京での暮らしぶりは、どうなんだろう。

左手の薬指に指輪がないことから、結婚していないのはわかったけど。

たとえば、身の回りを世話してくれるような人は、いるんだろうか。


そういえば、和田梓が話していた。

汐留でかわいらしい女の子と一緒にいるところを見かけた、と。



その女の子が、今つきあっている彼女なんだろうか。

その子は、宏之が同窓会に参加することを知っているんだろうか。

その同窓会に元カノが来ることは、聞かされているんだろうか。



だめだ。

やっぱり、酔いが足りない。

足りないから、考えなくてもいい余計なことまでつい考えてしまう。



ふいに、幹事役の子がマイクを握った。



「ではここで、ご多忙の中せっかくお越しいただいている恩師より、ご挨拶をちょうだいしたいと思います」



スタンドマイクの前に恩師が登場する。

シルバーフレームの眼鏡をかけている彼は、背筋をぴんと伸ばしてはいるものの、髪の毛は白髪混じりで、ロマンスグレーの髪の毛をなでつけている。


でも、誰だっけ。

担当教科が世界史だったのは覚えているけど、名前が思いだせない。

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