ラスト・ラブ -制服のときを過ぎて-

「少し、歩いてみない?」



ふたりの想い出をなぞるという意味合いも、含んではいる。

変わっていないところも、まだ残っている。

それに何より、まだ華やかにイルミネーションで装飾されている街並みを眺め歩くだけでも、十分に価値がある。

東京の絢爛たるイルミネーションと比較したら、格段に劣るだろうけど。

恋人だった頃の気分に戻るのに、後押しをしてくれる。


私の提案に、宏之は反対する理由もないと言いたげに、深くうなずく。



「あ、あの公園!」



しばらく歩き進めていると、横手に公園が見えてきた。

駅と学校の中間点のようなところに位置する、大きな公園だ。

懐かしげに声をあげたのは、宏之だった。



「寄ってみる?」



目を細めた宏之の手をとって、公園へと向かう。

膝よりも少し高い鉄柵を越えて、中に踏み入れる。

ゆるやかなスロープとなっている遊歩道をくだっていく。


抜けた先で、ベンチが片隅に点在する広場が目の前に広がる。

桜の木々が周囲に何本も植えられていて、春になれば、地元の人間が花見しに集まるほどのちょっとした名所だ。

もちろん春の桜だけではなく、夏は緑、秋は紅葉と四季折々の装いを楽しめる。

冬は冬で、日中はのどかな陽射しが降り注がれる。

1年を通して、小さい子ども連れの母親や、老夫婦が散策する憩いの場だ。


けれど、陽も暮れかかり、寒風が吹きつけるとなれば、さすがに人影は見られない。



この公園も、宏之とのデートコースのひとつで。

桜が咲き誇る季節には、学校帰りに宏之とよく寄り道して、桜を眺めた。

はらはらと儚げに舞う桜の花びらを、いつまでも眺めた。


ざ、ざざざ。

風に揺られて枝が鳴る。

葉音のざわめきが、心地いい。


よみがえる想い出。

あれは。



「ねえ覚えてる? 3年のクリスマスのこと」

「ああ、覚えてるよ」

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