ひな*恋
「とは言え…」



せっかく借りた傘だけど、貸してくれた彼の住んでる所や名前も知らないのだ。

返したい気持ちはもちろんあるんだけど、その方法は皆無に近いのかも。



彼の着ていた制服から、学校を探してもいいんだけど………そこまでする必要あるかしら。



「だいたい、返して欲しければ連絡先くらい教えてから貸しなさいよねっ」



なんて。
何で私の方が強気になってんだか。



…待てよ。
そう言えばアイツ、確か…



――『俺ん家はここから近いから、ちょっとくらい濡れても平気だし』



そんな風に言っていたなぁ。


雨だから自転車に乗ってたわけでもなく、あの本屋さんから歩いて行けるくらいの近い距離に家があるんだろう。




「……………………
……………………」












散々迷った挙げ句、近くに住んでるんならまたどこかでバッタリ出会えるかもしれない。

そんな軽い気持ちで自分の中では解決し、私は自分の傘だけを差して職場へと向かう事にした。












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