Hurly-Burly 5 【完】

「華沢さんの旦那さん、お優しいわよね。」

近所のおばさんたちがよく話してたのを覚えてる。

俺の親父が優しいと平面上のことしか知らない

おばちゃんたちはあの偽りの仮面を被った人に騙されてたんだ。

小さい頃は確かに優しい記憶もあったような気がする。

それでも、俺の記憶に埋もれるほど昔のことだ。

よく小さい頃は肩車してもらったり可愛がられたかも

しれないけど、今はそんなの苦い思い出にしかならない。

確かに、優しい外面だけは徹底してたみたいだ。

周りから見たら家族思いの優しいお父さんって

評価がその徹底に見合ってた。

ある時から歯車が狂い始めてしまった。

すごく可愛がられた。

異常な愛情だって思うようになった。

寝る時いつものように母さんと本を読み聞かせ

してもらって眠るのがその当時の日常だった。

母さんによく似てると言われた。

「男の子はお母さんに似るものなのよ」と

母さんが口癖のように言ってた。

だから、あんまり納得してなかったこの容姿も

母さんに似てるなら仕方ないなって思った。

眠い目を擦りながら母さんが風邪をひくと

可哀想だから布団を掛けてあげた。

「成、起きたのか?」

親父は仕事に真面目な人だと近所のおばさんたちがよく

喋ってたような気がする。

「ん、父ちゃんおかえり」

スーツ姿の親父が帰ってくるのを待ってたりもした。

帰ってくる親父が寂しくなってりしねぇかなって

思ってよく起きてた。

「成、こっちにおいで。」

ある日が来るまでは。

何の疑いも知らなかったのは自分の父親だと思ってたからだ。

だから、母さんを布団に残して親父に駆け寄った。

少しも変なんて思わずにだ。

駆け寄っていつものように抱き上げられて、

少しだけ違和感に思った。

床に置いてあった紙袋にも気づかなかった。

多分、気づきたくなかったんだ。

家族が大事だと思っていたから。

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