Hurly-Burly 5 【完】

少しすると、紙袋から何かを取り出す親父に

オモチャで買ってきてくれたのかなって思ってた。

ワクワクしながら待ってたその手に持ってたのは、

期待をしていたオモチャでも何でもなかった。

その手にあったのは明らかに“服”だった。

その服はどう見ても“女の子”用だった。

「成、父さん娘が欲しかったんだ。

成は可愛いから女の子の格好出来るよな?

父さんのために着てくれないか。」

それが始まりで地獄の日々の始まりだった。

嫌だった、死ぬほど嫌で影で何度泣いたか分からない。

ただ、毎日繰り返されるこの異常な時間は耐え難かった。

誰にも知られたくなかった。

もちろん、母さんには一番知られたくなかった。

いつも、強くなって母さん守るんだって言ってる

俺が息子で良かったって言ってくれる母さんにだけは

知られるわけにはいかなかった。

それに、父さんは誰かに操られてんだと思ってた。

よく戦隊レンジャーに出てくる悪い奴に

催眠をかけられてこんなことしてるって思い続けた。

耐え続けたのに日に日に持ってくる服が過激になった。

写真を撮られてその日も泣かないようにグッと

堪えてたはずだった。

「父さん、何やってんだよ!!」

そんな我慢し続けた俺に真っ先に気づいたのは、

母さんでも父さんでもなく俺の“兄貴”だった。

「武、お前には関係ないだろ。」

「成が嫌がってるの見て黙ってられるわけない。」

母さんは、俺のことも兄貴のことも分け隔てなく

平等に育ててくれた。

多少、弟だからって甘やかしてはくれた。

でも、親父よりはずっと公平で接してた。

「俺の邪魔をするなら殴るぞ。」

兄貴は親父に可愛がられたことは一度もなかった。

俺が生まれてからなのかその前からなのか

分からないけど、俺が知る限りではなかった。

兄貴の容姿は俺とは違ってどちらかというと、

親父に似ていて可愛いというよりも男っぽい。

タレ目の俺とは違ってつり目でカッコイイなって

密かに思ってたつもりだ。

俺も兄貴みたいになりたいって思ってたはずだった。

< 319 / 415 >

この作品をシェア

pagetop