Hurly-Burly 5 【完】
夏君は相変わらずちぃ君と睨めっこして
きゃはっと可愛いく笑ってた。
「3歳ですか・・・・・」
その時の記憶が全くない。
そんなの当たり前のことかもしれない。
だけど、3歳頃の写真は家に飾られたりしてない。
アルバムも見たことがない。
あたしの知らない何かがそこにある。
そして、母さんが海外に旅立ったのはその翌年だった。
「どうかした?」
馨君が顔色を伺うかのように気にかけてて、
生憎、ポーカーフェイスのお陰か気付かれてない。
「何でもないです。」
多分、掛かってるんだと思う。
その扉は開けちゃ駄目なんだよって厳重に
何かが保管されてるような気がした。
思い出すのはまだ早いよって言ってるような
気がしていつも素通りだった。
『・・・・・必ず、守るよ。』
ただ、“あの人”はそんな前からあたしを知ってる。
自分の知らなかった自分も全部知ってる。
「そう言われると気になるよ?」
馨君が顔を向けてきて焦った。
「え、えっと、あたしもココちゃんみたいなことを
兄ちゃんに言っていたらと思ったら寒気がしただけですよ。」
「寒気って・・・」
「大人になるにつれて羞恥心というのを覚えるそうで、
今しか言ってもらえないかもしれませんよ?」
兄ちゃん、今絶対くしゃみしただろうな。
「何か、日和ちゃんに言われるとその気がしてきた。」
馨君が伊織君の背中をポンと叩いた。
「ユウヤ、それ何だよ?」
慶詩がユウヤの持ってるお盆を見た。
「ハッ!ユウヤ、それ届けねば。」
すっかり忘れてたよ!
「どこに持ってきゃいいんだよ。」
「え、えっと、確か向こうの方だったような・・・」
「ヒヨリン、大丈夫か?」
「ま、任せたまえ!今、思い出してる。」
どこか覚えてないわけじゃないのです。
ただこの家が広すぎることが原因なのです。