ずっとあなたが好きだった
ふと、彼が私を呼ぶ声が聞こえた気がして、思わず左右を見渡す。

ばかな私。
そんなはずないって分かっているのに。


そして再び私の鼓膜を震わす甘いテノール。

「紗雪……、さん……?」


コツリ、とダークブラウンの革靴の爪先が伏せた視界に入り込み、
まさかと思いながら、ゆっくりと顔を上げる。


けれど、そこにいたのは名前も知らない、スーツ姿の男性。

その涼やかな目元は、
いつも私に優しく微笑んでくれる彼と同じ、穏やかさと慈愛に満ちていた。




もう、限界だった。

熱い涙が私の瞳から零れ落ちたと同時に、スーツの胸に抱き寄せられていた。
< 3 / 4 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop