王子様とビジネス乙女!


「レナール様には申し訳ないんですが、今日1日は『レニィ君』になってもらいます」

「それが私の偽名ということだね?」

「はい。
裕福な商家の箱入りボンボンなので、現場を学ぶために私弟子入りした、という設定でお願いします。

そうしないと育ちの良さが説明できないので。

なので私は1日レナール様に敬語を遣えません。

文字通り弟子のように扱います。

本当によろしいんですか?」

「構わないよ。
弟子の私は師匠に敬語を遣った方がいいかな?」

「いえ、大丈夫です。
ただ、カドリさんと呼んでもらえると助かります。

あと、一人称は『俺』で。
話し方が上品すぎます」

これは悪くない話だ。

今日1日は王子らしい言葉遣いを意識しなくてもいいんだから。

「では、今から設定を実行してもいいでしょうか?」

「オーケー。
俺は君についていくよ」

「よく言ったレニィ」

突然背中がバシッと叩かれる。

「今日1日かけて貴様の箱入りボンボン息子根性を叩き直してやる。

気合い入れていけよボンクラ弟子が!」

「はい!」

反射神経で返事したはいいけど、何だこの豹変ぶりは。

「えっと…設定、だよな?
カドリさん」

「もちろんです。
こんな感じで言ってもよろしいか、という確認です」

「構わんさ。
頼んだのは俺だしな。

あー…、別につきまとった恨みを晴らしたい、とかじゃないよな?」

「え、全然!
そんなことないデスヨ!」

やたらいい笑顔で否定するカドリ。

まぁ可愛いから許してやるとするか。

「とにかく、今から仕事を始める。

私達は屋敷から出ない設定だから窓から脱出するけど、構わないよね?」

拒否権はないらしかった。

「了解、カドリさん」

「では私から手本を見せよう」

窓枠に足をかけ、ひらりと飛び降りるカドリ。


…案外、こういうのも悪くないかもな。



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