『桜が咲くにはまだ早い三月』
止まったはずの着信音がいつまでも耳に残り、私を呼び出し続けているような錯覚の中でどうしたらいいのか分からずに、私は名前が消えて真っ暗になった携帯の画面をずっと見ていた。


あの本屋のどこかで電話をかけている浩太の姿を想像しながら、だけど、多分、私の車の後を見つめていたわけじゃなく、ただの偶然がこの着信を鳴らしているような気がしていた。

やっぱり浩太は気づいていたんだ、なんてドラマチックな気持ちにはほど遠いモヤモヤっとした感じが湧き上がって来た。


すぐに電話をして

「しばらく」とか

「どうして電話くれなかったの?」とか言えばいいの?


「今電話くれた?」とか。


付き合っているわけでもあるまいし、そんなセリフを言う女にだけはなりたくない。


そんな事ばかり言っていたあの頃の私には戻りたくないよ。



可愛い女になんかなれなくても、電話はしないと決めたんだから…

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