『桜が咲くにはまだ早い三月』
横断歩道を走り抜けたあの姿は、私の知らない浩太だった。

私の知っている浩太なら、車が通り過ぎるまで私の姿を見つめていたはずだと、強気な心が叫び出したけど、何だかちょっとリアリティないじゃん。


車を停めて少し待ったけど、携帯はベルを鳴らさなかった。


へぇ…


二度はかかって来ないんだ…


私はサイドブレーキを下ろし、待ち合わせの場所に向かってアクセルを踏んだ。


その途端、メール音が響いたんだ。


あ…浩太?



赤信号で停まり慌てて開けたメールは、「田辺浩太」と表示されている。



そこには走り去る私の車の写真。


三枚続けて小さくなって行く車の写真が添付してあった。


件名は 何もないまま。

ただ それだけ。

< 14 / 42 >

この作品をシェア

pagetop