キモチの欠片
「ねぇ、あの二人やっぱ付き合ってるよね」
「だよね、ラブラブじゃん」
隣のテーブルで話していた声に耳がピクッと反応した。
完全に誤解されてしまった。
『これのどこがラブラブよっ』と怒鳴りたい気持ちを押さえ、ギロリと葵を睨みコップの水を飲んだ。
「うずら食べたぐらいでそんなに怒ることないだろ。ホラ」
自分のハンバーグを一口サイズに切りあたしの口元にもってきた。
「ん、あーんしろよ」
ツンツンと唇に押し付けてくる。
こんな人前でなにしてくれてんだ!!!
「バ……あ、」
『バカ言わないでよ』と言おうとして口を開いた瞬間、それを狙っていたかのようにハンバーグが口の中に入ってきた。
入ってきたものを出す訳にもいかず、モグモグと咀嚼する。
くっそぉ、葵のヤツめ!
信じられない。他の人から見たら完全に“あーん”してるように見えるじゃないの。
これじゃ、あたしらまるでバカップルみたい。
「あ、ゆず……」
葵の手が伸びてきてあたしの唇の端を指でなぞり、その指をペロリと舐めた。