キモチの欠片

「あ、うん」

「お邪魔しまーす」


葵は靴を脱ぎ揃え、ズカズカと我が物顔で部屋の中に入ってくる。なんなの、いったい。

ガチャリ、と鍵を閉めて葵のあとを追う。

どうして葵がここを知ってたんだろう。あたしは教えていなかったのに。


「ねぇ、なんであたしの住んでるとこが分かったの?」


「花音さんに聞いた」


リビングで買い物袋の中身を出しながら意外な人物の名前を言った。


「えっ、ママに?」


「あぁ。今朝、受付のあの先輩にゆずが体調崩して休んでるって聞いて、花音さんにゆずの住んでるマンションの場所を教えてもらった」


「なるほど、ってなんでうちのママと連絡取り合ってるの?」


危うく納得しかけたけど、いつからそんな仲になっていたんだろう。驚きなんですけど。

それよりママもなに場所を教えてんのよ。一人暮らしの娘の部屋をペラペラ喋っちゃダメでしょ。


「なんでって俺と花音さんはメル友だから。それはそうと……」


スッと腕が伸びてきてあたしの両頬を掴み葵が顔を近付けてきた。

な、なにーっ!?

< 167 / 232 >

この作品をシェア

pagetop