【完】『潮騒物語』

慶の姓は珍しい。

實平(さねひら)、と読む。

慶がなぜ関西弁なのか萌々子は分からなかったが、慶のいる花屋によく立ち寄る祖母の操の話では、

──大阪の大学を出てから関東に来た。

ということで、それだけは確かな消息らしい。

そもそも。

過去のことを、あまり慶は詳しくいわない。

聞き出そうとすると、

「あれこれ話したかて構わんけど、三分で五百円もらうで」

とおどけ、最終的にはうまいこと笑わせて、はぐらかしてしまうのである。

あとから知ったが、自宅が鶴見にあるのもはじめは疑問で、

「最初は系列の総持寺の門前の花屋で働いてたんやけど、人手が足らんから鎌倉に回ってくれ言われて」

それで一時間かけて、毎日通勤している…との由であった。

ついでながら鶴見の総持寺というのは禅宗の本山で、石原裕次郎の墓があることでも知られており、遠方の参拝客が門前の花屋で供華を買うことがよくある。

どうやら元々そこへ最初アルバイトか何かで採用されたらしい。



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