あの夏よりも、遠いところへ

とても美味しい夕食をご馳走になった。まさかきのうの余りものばかりだとは思えないくらい。

変な食卓だ。俺と、クラスメートと、そのお姉さん。少し早い時間の夕食には、彼女たちの両親はいなくて、それだけが救いだった。いきなりオトンとオカンになんか会えるかっての。


「蓮くん、美味しい?」

「あ、ウマイっす。ごちそうさまです」

「よかった。関西のほうは薄味だから、ちょっと辛いかもって思ったんだけど」


優しい味がする。余分なものは入れてませんって感じの味。

いつもお姉さんが料理をしているのだろうか。


「その煮物、朝日ちゃんが作ったやつなんだよ」

「え!?」


北野が料理? 全然想像できねえ。しかもしちゃくちゃウマイ。


「うちの女性は、みんなが料理するの。お父さんはしないんだけどね」

「へえ」


すげえ。スミレも少しは見習えばいいのに。

見た目ばっかり気にして、あいつ、料理どころか掃除すらできねえんだ。大丈夫かよ。


お姉さんは健気だった。不機嫌な北野と、緊張しまくっている俺に、一生懸命話しかけていた。

俺もなにか話さなければと思ったんだけど、どうしてもダメだ。だってさ、右には北野がいるし、目の前にはサヤによく似た女がいるんだぜ。心臓ばくばくだよ。

夕食はたしかに美味しかったけれど、そんなだったから、あんまり味は分かっていなかったと思う。


帰り際、また遊びに来てねと笑ったお姉さんに、俺はとても泣きそうだった。

何度も何度も、サヤと呼びかけてしまいそうなのを我慢した。

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