あの夏よりも、遠いところへ
 ◇◇

どうしてももやもやして、翌日は学校に来た北野に、俺は挨拶すらできなかった。彼女を見ると、どうしてもサヤに似たお姉さんが頭に浮かんで、気持ち悪いんだ。

雨が降っている。雨は嫌いだ。じめじめして、頭痛えもん。


そろそろ前期中間テストか。嫌だな、テスト。勉強はあんまり好きじゃねえし、だからといって勉強しないとぼろぼろだし。

中途半端に真面目な俺は、いつも中途半端に勉強して、中途半端な点数を取る。得意科目を訊かれてもぴんと来ない。苦手科目は、英語。日本人なんだから、英語なんてできなくていいんだよ。


それに、テスト前は部活が停止になるのが嫌なんだよな。

どうしても帰る気になれなくて、無性にバスケがしたくて、俺は誰もいない体育館に来ていた。


倉庫から籠いっぱいのバスケットボールを引っ張り出してくる。フリースローをしようと思った。

フリースローは得意じゃない。遠藤ならたぶん、10本中9本は決めてみせるけど、俺は10本に6本決まるか決まんねえか、そんくらい。


苛々した。もやもやした。

全然シュート決まんねえし。なんだよ、バスケ部なのに情けねえよな。


たった一度、数時間しか会っていないのに、すげえ。

北野のお姉さんに、俺はこんなにも動揺させられている。正確にはたぶん、サヤに、だけどさ。

手が震えているのを自覚して、思わず笑ってしまった。
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