春雪
「それで?」
「え? それでって?」
「浜崎ゆりかは隠している恋人でも何でもない妄想癖のある女だ。クリスマスの事情も説明した。他にまだ何かあるのか?」
「他にって……」

 さっきよりは怒ってないようだけれど、まだ不機嫌そうな表情をしていることからまだ何か引っかかることがあるらしい。

 私が別れたと思った経由について聞いていたのだから残っている問題は1つ。
 別れたと思った時の事。
 つまり、電話で雅輝くんが私の考え方についていけないと言ったからだ。

「先輩と会ったって話しの時。雅輝くんすごく怒ってたし私の考え方にはついていけないって……。あんなふうに言われたら誤解しちゃうよ……」
「……」

 私がそう言うと、雅輝くんは小さくため息をついた。

「あれは……。ただ、面白くなかっただけだ」
「え?」
「いくら俺でも自分の彼女が他の男と2人っきりで会っているのを知って怒らないはずないだろ?」

 雅輝くんの言葉にびっくりしてしまう。
 それっていわゆるヤキモチを焼いたということだ。

「先輩には彼女が……」
「それは関係ない!」
「……」

 言葉を途中で遮るなんて雅輝君らしくなかった。
 私が先輩と会っていたのは、それほど不愉快なことだったのかもしれない。

「あのね……」
「……」
「本当は口止めされてるから言っちゃいけないんだけど、先輩ね、お兄ちゃんなの」
「は?」

 私の言葉に雅輝君は驚いたように固まっている。
 まあ、本当の兄ではないのだけれど、それでも私にとって先輩は兄という認識だった。
 
「生まれた時から兄弟みたいに育ったってだけで血は繋がってないけど……でも先輩は私にとってやっぱりお兄ちゃんで……」
「……」

 無言のまま無表情になっていく雅輝くんの様子に、声がだんだんと小さくなってしまう。

「七海?」
「え? はい?」

 突然名前を呼ばれて声が少しだけ裏返ってしまう。
 これから何を言われるのかわかっているからかもしれない。

「俺が妹だと思っているからと女と2人で出かけて、七海は嫉妬もしてくれないのか?」
「え?」

 予想もしなかった言葉にびっくりしてしまう。

 それだけじゃない。
 雅輝くんが私に嫉妬してくれないのかと聞いたのだ。
 これではまるで私に嫉妬して欲しいみたいに聞こえる。

 少しだけ心臓の鼓動が早くなった。

「ううん、嫉妬すると思う……。雅輝くんが他の女の子と仲良くするのは嫌……」

 嫉妬を隠さず正直に答えると、少しだけ雅輝くんの表情が和らぐ。
 私の願望もあるのかもしれないけど、嬉しそうに見えた。

「ごめんなさい。自分は嫌なのに雅輝くんに認めて欲しいって言うのはおかしかったね」
「ああ、わかってくれればいい」
「許してくれるの?」
「いや、俺も言い方が悪かったからな……」

 お互い謝りあったせいか、雰囲気が和んでいる。
 別れていないこともわかったし、ちゃんと話せてよかったと思う。
 
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