春雪
「……って言うことなの」
「……」

 事情をすべて話し終え見ると、雅輝くんは顔をしかめていた。

「本当は発表があるまであまり口外しないようにと言われてたんだが……、うちの会社はとある会社との合併が急に決まって皆その対応だけで今は手一杯な状況なんだ。俺はシステムを統合する為のプログラムを一任されているから、急に合併先の会社に出張が決まったり残業になったりしていたんだが、浜崎ゆりかは3ヶ月前の出張で紹介された合併先の社長の娘なんだ」
「娘さん?」
「ああ。いかにも甘やかされて育ったお嬢様って感じの女だ」

 その言葉に少しほっとしてしまう。
 雅輝くんは我侭で勝気な女性が苦手だし、話している様子からも相手に好意を感じていないと分かるような表情だった。

「まあ、お決まりのよくある話しだ。向こうの会社に行った時、俺を見て好意を持ったらしく交際を迫られたから恋人がいると断った。それで親に泣きついたのか、あれこれ理由をつけては向こうの会社に呼び出されるようになった。どんなことがあっても浜崎ゆかりに気持ちが傾くような可能性なんてなかったし七海に女絡みの話しはしたくなかったんだ」
「……」
「浜崎ゆかりが七海の携帯番号をどうやって調べたのかは俺にもわからないが、クリスマスの予定は上の誰かから漏れたんだろう。浜崎ゆかりのせいで向こうの会社に頻繁に呼び出されるせいで自分の仕事が滞るようになってそれで残業するしかなかった。あまりにも残業続きの俺を見かねた内谷先輩が俺の代わりに向こうに行ってくれてたんだが、クリスマスだけは俺が先輩と代わったんだ。だからクリスマスは仕事しかしていない」

 少しだけ疲れた顔をすると雅輝くんは前髪をかきあげる。
 疲れた時に雅輝くんがよくするクセ。
 そんな仕草さえ見とれてしまう。

 雅輝君は優しそうで爽やかな見た目に反して寡黙で男らしい面がある。
 そういうギャップに諦められない女の子も多かった。
 浜崎さんも他の女の子達と同じように雅輝くんの魅力に捕らわれてしまったのかもしれない。

 雅輝くんの態度は想いを寄せる女の子に淡い期待を持たせないほど冷たい。
 その上、雅輝くんから女の子に近づくことは絶対になく。
 雅輝君に近づきたくてそばに行っても無視され、かといって策略で近づくと嫌われてしまう。

 浜崎さんは親の権力を使ったせいで雅輝君の印象は悪くしている。
 彼はそういうのが嫌いな人だから……。

「どうして出張代わったの?」
「先輩の奥さんが臨月でちょうど予定日だったんだよ」
「赤ちゃん? ……そっか、それなら代わってあげないとね」 
「……」
 
 子供が生まれるというのに出張なんてタイミングが悪すぎる。

 元々その会社は雅輝君を指名していたのだ。
 それを今まで先輩が代わってくれてたのだから、雅輝くんはそこまでしてもらうのは申し訳ないと思ったのだろう。

 彼のそういうところが好きだ。
 たとえクリスマスのデートをキャンセルされてもその方がずっといい。

 私に理由を説明しなかったのは、ただたんに恥ずかしかったのだろう。
 良い事だからこそ、人に知られることを恥ずかしがる人なのだ。
 雅輝くんらしさに少しだけ笑ってしまう。
 
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