春雪
「七海?」

 彼のクリスマスプレゼントを探して伊勢丹の店内を1人ぶらぶらしていた私を呼ぶ人がいる。
 声のした方へと振り向くと案の定、予想通りの人がいた。

「あ、先輩……」
「なんだ? 一人か?」
「うん……」

 スーツを着た店員。
 宇佐美 蓮。
 隣に住む兄的な存在で、ここに雅輝くんのプレゼントを探しにきたのも先輩がここで勤務しているからだ。

「もう少し待てるなら一緒に帰るか?」
「うん!」

 期待していた展開に少しだけほっとする。
 兄的な存在である為、ある程度の勤務状況は把握しているが、クリスマス言えば百貨店は売り上げが大いに見込めるイベントで残業ってこともあったのだ。

 一通り店内を見て回っていると閉店の時間となり、いつもの喫茶店に入る。
 先輩が一人で店に入るのは嫌な私の為に顔見知りの店を作ってくれたので、店長に挨拶していつもの席に座った。
 しばらく本を読んでいると、いつもより少しだけラフな服装の先輩が店内に入ってきた。
 私の前に座って、ブラックコーヒーを頼む。

 しばらく近況報告がてらの雑談をしている時だった。

「最近、恋人とはうまくいってないんだろ?」

 たわいもない会話をしていたのに突然踏み込んだ質問に心臓が跳ね上がる。
 先輩は私を妹のように扱うが、恋愛面のプライベートなことに踏み込んでくるようなことはめったに言わない人なのだ。

 私と雅輝くんの事情は簡潔に報告したので知ってはいる。
 けれど、それについて今まで何も言うことはなかった。

「……どうしてそう思うの?」
「最近、風呂で泣く回数も多いみたいだし、この間、部屋で泣いてた。お前はどうしょうもなく辛い時は部屋で泣くからな」
「あ……」

 知られている羞恥に体が縮む。

 私の部屋は先輩の隣だ。
 しかもうちのお風呂は先輩の台所に近い。
 おばさんに聞かれているとは思わなかったが、先日おばさんに言われて知られていることを知った。
 今日先輩に会いに来たのも、おばさんに先輩も心配しているから会うように言われたからだ。

「うまくいってないって言うか……」

 どう説明すればいいのか困惑していると、かばんから携帯が鳴る。

「あ、ちょっと待ってね?」

 すぐにかばんから携帯を出すと、ディスプレイには雅輝くんの名前が表示されていた。
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