春雪
 それからの私は不安定な状況が続いた。

 彼の誠実さを信じているのに、彼女が知るはずのないクリスマスの予定を知っていたこと。
 仲間との関係上、押し切られ断れなかった私との交際。

 仕事が忙しいという理由でメールの数も減った。

 心のない恋人関係。
 想われていないということが私を苦しめる。

「七海!」

 彼の呼ぶ声が聞こえて顔を上げた。
 今日は久しぶりのデート。
 デートと言っても、夕食を一緒にするだけの短い時間だけれども。

 雅輝君が少し離れた場所から軽く手を上げているのが視界に入る。

 仕事帰りのスーツ姿。
 黒のコート、首にはマフラーが巻かれているが、それは高級ブランド物で私がプレゼントしたものじゃない。
 彼が私の編んだマフラーを付けているのを見たのはプレゼントした次のデートで見た1回だけ……。
 次にはもう今のマフラーを巻いていた。

 私のプレゼントしたマフラーは気に入らなかった?
 それとも手編みなんて重いのは嫌だった?
 どうして新しいマフラーを買ってきたの?
 怖くてそんなことは聞けなかったけれど、新しいマフラーを見た時はすごく寂しく思った。

 私も男性と付き合うのが初めてもあって、彼との付き合いはずっと手探りの状態だ。
 どれが良くて、どれが悪いのか?
 そんなことを彼の反応を見て確認する。

「店の中で待ってろって言っただろ?」

 少し怒ったような顔。
 久しぶりに会ったのに彼の一声はまずお説教だった。

 目頭がきゅっと熱くなり鼻がツンとしたので慌てて笑顔を作る。

「ごめん、今来たばかりだったから……」

 私が謝っても彼の表情は曇ったままだ。
 遅れてきた謝罪も、久しぶりに会えた事にも彼は触れることなく背中を向ける。

「……じゃあ、行くか」

 彼が先に歩き出すので私はその背中を追う。

 手を繋ぐとか腕を絡ませるとか、恋人らしい事をしたいが私から行動することは出来ない。
 彼がしてもいいと思えば手を出してくれるのだが、今の彼の手は両方ともコートのポケット中だ。

 女性不信ぎみの彼に心のない恋人関係を続けさせる事は、彼が二股をかけていなくても、よくなことだと最近思うようになった。
 届かない想い。
 どんなに辛くても私から別れるべきなのかもしれない……。
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