隣の彼の恋愛事情
「だって紅を事前に誘うと、なんとか予定を入れて断ろうとするから。」

「しょうがないでしょ。知らない人と仕事以外で話するの苦手なんだもん。」

仕事だと平気なのに、プライベートだと急に面倒になるんだよね。給料もらえないから?

「もーそれだけじゃなでしょ、そろそろ卒業しようよ。チィ兄」

早希が言う『チィ兄』とは、私の幼馴染の 美馬千秋(ミマチアキ)のこと。
チィ兄は私の実家の花屋がお花を納品している『尾上流』の華道の家元の息子。いわゆる後継ぎ。

若先生なんて呼ばれている彼は、華道の家元に必要ないほどの甘いマスクで今ではときどきマスコミにも登場している。

「別にそんなんじゃないし。」
ボソリとつぶやく。強く言えないところがまたイタイ。

小さいころ親の仕事についていき、尾上の御屋敷には何度も通っていた。チィ兄はただの花屋の娘にも優しく、広い庭は私とチィ兄の遊び場だった。
小さいころから、そばにいたやさしい王子様を私が好きになるのはもう当たり前のことだと思う。
恋愛感情を意識したのって、いったいいくつの時だろう?

それくらい、チィ兄への恋心は今までの私の人生の結構多くを占めていた。
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