椿ノ華
「…葵、だね?」
「……」
小さく頷いた。
「…とりあえず行こう。乗って」
抱き締められたまま立たされ、車に乗せられる。
何処かに向かっている車の中は、終始無言で。
オーディオで掛けられていた洋楽だけが、沈黙に響いていた。
「…此処は?」
着いた先は、南十字家の屋敷に負けない豪邸だった。
南十字家は大正や明治を思わせるようなレトロな造りだが、
この家はヨーロッパの古城の様なイメージ。
勿論、城程大きくはない屋敷だけれど。