椿ノ華
「…行ってくる」
それでも、不意にされる口付けは、
壊れ物に触れる様に優しい。
「…行ってらっしゃいませ、葵さん」
部屋から出て行く葵を見送り、
力無くベッドに腰を下ろした。
「…狡い、」
先程触れられた唇を、指先でなぞる。
葵の事を恨み切れないのは、
時折見せる優しさのせいだ。
「奥様、おはようございます」
「…おはよう、ございます」
部屋に戻ると、専属のメイドが待機していた。
「奥様」と呼ばれるのにも、慣れてきてしまった。