椿ノ華
―拝啓 南十字 椿様
私はきっと、もう長くはない。
自分の体の事は、自分で分かっているつもりだ。
だから、椿と葵に手紙を遺す事にした。
私が最期に出来る事は、きっとそれくらいだから。
椿、私は君に会えて本当に良かった。
君を引き取り、孫として育てる事が出来て、本当に幸せだった。
きっとそれも、葵への罪滅ぼしなのだろうが…
啓志と桜さんの事を話した時は、
きっと君を傷付けたのではないかと思う。
それでも最後まで聞き、気丈に振舞う君は、
やはり桜さんに似て強く美しい女性だ。
"椿"という名前に恥じない、素晴らしい女性だから、
きっと君を心から愛してくれる人も居たのだろう。
私は、本当は気付いていた。
君が、葵を愛していない事に。
きっと、私が葵から聞いた事は全て嘘なのだろう。
祖父として、本当なら君を葵の呪縛から助けてやらないといけなかった。
でも私は、寂しい思いをしてきた葵にとって、
君が唯一なのではないかと思ってしまった。
だから、見て見ぬ振りをしてしまった。
本当に申し訳無い。
それでも、屋敷に閉じ込められていても、いつも笑顔の君に、
私は助けられていた。
本当に、この屋敷に来てくれてありがとう。
葵を、宜しく頼む。
だが、私の一番の願いは、君が心から愛している人と、
本当に幸せになる事だ。
私はそれを見届ける事が出来ないが、
"椿"の名を持つ君なら大丈夫だ。
過酷な運命を呪う事もあるかもしれないが、諦めないでくれ。
どうか、幸せに。
敬具 南十字 啓一郎―