明日へのメモリー

 樹さんの最初の印象は、洗練されたハイソな家の出、という感じだったけれど、実は落ち着いたシンプルな趣味の人だとわかってくる。

 ちょっとぶっきらぼうな話し方も、外見とは対照的で、ますます好きになっていった。

 時々、じっと見上げているわたしと目が合い、彼が苦笑した。

「そんな大きな目で穴があくほど見るなって。本当にあいたらどうする?」

 下手な冗談を飛ばしながら、ほら、次は、とまた問題を示してくる。


 授業中は携帯を切っていたけれど、時々「悪い、ちょっとだけな」って言いながら、誰か――おそらくは女の人――と話してるのを見ると、やっぱりやけた。

 樹さん、『彼女』いるよね、もちろん……。

 怖くて尋ねる勇気もなかったけど、電話の後は授業にひびくほど気持がへこんだ。

 それに気付いたのか、樹さんが、もうしないからな、と頭を撫でてくれる。

 まるで小さな女の子にするみたい。わたしって全然対象外なんだな、と、さらに落ち込んでしまう。

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