恋するキミの、愛しい秘めごと
「なぁヒヨ、スープ買いすぎじゃね?」
「あぁ。なんかねー、抽選で向井君のサインが当たるらしいよ」
カンちゃんと体を重ねたあの夜から、2ヶ月が経った。
最初の数日間は、やっぱり少し気まずい沈黙が流れる事もあったけれど……。
今ではもう、すっかり元通りだ。
「……当たったら、速攻ヤフオクで売ってやる」
「はぁ!?」
下手したら、前よりももっと仲が良くなったかもしれない。
もちろんそれは、表面上だけなのかもしれないけれど。
とにかく毎日、同じ家で衣食住を共にして、 2人で同じ会社に出社する――そんな生活は、あの日からも変わらず、同じように続けられている。
会社でのカンちゃんも、もちろん今まで通り。
「南場さん。さっき高幡さんから電話がきて、午後イチで来て欲しいって言ってたけど」
「あ、はい! ちょっと折り返してみます」
何も変わらない毎日の中で、一つだけ驚いた事は、「出来レースだ」と榊原さんが言っていたあのプレゼンで、私の企画が採用された事くらい。
結局、榊原さんのあの話は何だったのか。
彼との連絡を断った今、その真実を知る術はないのだけれど……。
始めのうちは毎日のように電話をかけてきていた榊原さんも、一切電話に出ることのない私に諦めたようで。
今ではもう、着信履歴に彼の名前が表示される事もなくなった。
「宮野さん、15時半頃は何か予定入っていますか?」
「あー……、その時間はヤナギダと打ち合わせだな。一緒じゃないとまずそう?」
「あ、いえ。それなら一人で行って来ます」
博物館のカフェのプロジェクトの責任者だったらしい高幡さんとは、毎週のように顔を合わせている。
「ちなみに、今日はどっち?」
「今日はご自宅だそうです」
こそっと耳打ちされた言葉に、小さく笑って返事をした。
一緒に仕事をするようになって知ったのだが、一見強面の高幡さんという人は、さすがはカンちゃんの師匠だけあって、凄くやんちゃなおじい様だった。
仕事だというのに、「落ち着くから」というたったそれだけの理由で、私達をあの不思議な石造りの自宅に招いて打ち合わせをしてしまう。
どうやら今日もそのつもりらしく、指定されたのはいつもの彼の家だった。