恋するキミの、愛しい秘めごと

「相手が若い男だったら、こんなこと絶対にあり得ないんだけどねぇ……」

一人ぶつくさと呟きながらも、ちょっと楽しい気分でコンビニに寄り道をして、高幡さんが好きなフルーツが沢山入ったゼリーを買った。

それをプラプラ携えて、いつものように重厚な扉を押し開ける。


「高幡さーん! こんにちは、南場です!」

最近インターホンが壊れてしまったらしいその家の玄関に入り、2階に向かって大きな声を上げた。

家の中は外よりも少しだけ寒くて、だけど周りに緑が多いせいか、何だか空気がおいしく感じるという不思議空間。


「上がって来てくれー!」

いつもの返事にクスッと笑うと、勝手知ったる玄関横のシューズボックスからスリッパを取り出して2階に向かった。

外履のままでもいいらしいんだけど、一応ね。


『ガラパゴス諸島に棲む生物』
『フライパンで出来る美味しいパン』
『ハッブルの法則』

相変わらず、彼の読む本はよくわからない。

『ガーデニング~上級編~』

「……」

うん。

どうやらガーデニングの腕は着々と上がっているみたいだけれど。

コンビニの袋をガサガサと言わせながら廊下を進み、いつもの扉の前で立ち止まった。


「失礼します。南場です」

ヒョコっと中を覗きこむと、いつもの場所に、いつもの高幡さんの姿があった。

――けれど。


「あぁ、散らかっていてすまないね。悪いんだが、コーヒーでも飲みながらソファーで待っていてくれるかな?」

「……」

「ジャンヌ君?」

「あ、はい」

いつもの高幡さんの、いつもの部屋。

けれど、いつもと部屋の様子が違う。


壁一面に設置された本棚は、いつもは本でびっしり埋まっているはずなのに、今日は所々に、すっぽりと抜き取られたような空間が出来ている。


「あの、どうかされたんですか?」

コーヒーを淹れようと、小さな食器棚に手を伸ばしても、そこにはいつもあるはずのカップがない。

思わずかけた言葉に、高幡さんは作業をしていた手を止めて。

「あぁ」と思い出したように近くの箱からカップを2つ取出して、それにコーヒーを注ぐとソファーに行くように私を促した。
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