恋するキミの、愛しい秘めごと

実家に戻るために休みを取っていたカンちゃんは、溜まりに溜まった有給を消化すると言って、その日も会社を休んだ。

カンちゃんに見送られて玄関を出て、いつものように仕事をこなし……。

「ただいまー」

いつものように家に帰ると、もうそこにカンちゃんの姿はなかった。

「……カンちゃん?」

何となく、予感はしていた。

だから、思ったよりもダメージは少なかった。

「でも、やっぱり淋しいなぁ……」

真っ暗なリビングの空気はひんやりとしていて、音もない。

家具もそのまま。

小物だって、元からほとんどが伯父さんの置き土産か私のものだったんだから、なくなっているものなんてほとんどない。

唯一なくなっていたのは、カンちゃんの部屋にあったほんの少しのものたち。

本棚にあった本。

机の上にあったパソコン、タブレット。

ファイリングして、棚に収められていた書類。

それに、クローゼットにあった洋服。

机もベッドもそのままなのに、なぜか一目見ただけで“いなくなった”というのがわかってしまった。

ゆっくりと部屋に足を踏み入れると、本当に一瞬だけ……カンちゃんに抱きしめられた時に香った、彼の匂いがした。

もう一度リビングに戻り、ソファの下からおもむろに取り出したのは“大事なものボックス”と呼んでいた鍵付きの小さな箱。

そこには通帳や印鑑、車やマンション関係の書類なんかが入っていて……。

「やっぱりないか」

2冊あったはずのパスポートが、1冊なくなっていた。

< 184 / 249 >

この作品をシェア

pagetop