恋するキミの、愛しい秘めごと


「ここ、ですか……」

仕事を早めに切り上げ、2人で会社を出て、篠塚さんが予約をしてくれたお店の前で私はピタリと足を止めた。


「あの、私ここは――」

まるで足に根を生やしたようにそこから動かなくなった私に、一歩前を歩いていた篠塚さんが振り返り首を傾げる。


「……どうしたの?」

「えっと、」

1年一緒に仕事をしてきて、今更こんな事に気が付くなんて。


篠塚さんは、私と榊原さんの関係を知っているのだろうか……?


言葉に詰まる私の目の前には、外観からではお店かどうかも分からない……前田さんのお店。


私と篠塚さんが同じ会社だという事を、前田さんはきっと知らない。

でも私と榊原さんの関係も、篠塚さんと榊原さんの関係も知っている彼は、私達2人が一緒にお店にやって来たら一体どんな顔をするだろう。


上手く誤魔化そうとしてくれるかもしれないけれど――失礼ながら前田さんは嘘は苦手そうだし、勘の鋭い篠塚さんは、きっと何かを感じ取るだろう。


そうなった時、篠塚さんと榊原さんの関係も知ってしまっている私は、どうすればいいのだろうか。


背中を冷たいものが流れ落ち、ゴクリと息を呑む私をしばらく見つめた篠塚さんは、フーッと溜息とも取れる長い息を吐き出して。


「いいから入ろう」

「え!? ちょっと――」

私の腕をグイッと掴むと、そのまま引きずるようにお店の暖簾をくぐった。

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