恋するキミの、愛しい秘めごと


1年というのは、ボーっとしていれば何も得ることも出来ずにあっという間に過ぎるけれど、必死に毎日を過ごしていれば、大きなものを得ることが出来るだけの月日なのかもしれない。


「南場さん、今夜飲みに行かない?」

「いいですね。行きましょうか」

最初は恐ろしくて恐ろしくて、近寄る事さえ憚《はばか》られた篠塚さんと、まさかこうして時々飲みに行く仲になろうとは。


苦しくて、悲しくて。

初めのうちは、逃げ道にするために没頭した仕事。


けれど、必死にひとつひとつの仕事を消化していくうちに、たくさんの経験を積み、周りに認められ、あり得ないと思っていた篠塚さんとプライベートなお付き合いをするまでの関係を築くことが出来た。


未だに取引先に行くと「宮野さんは元気ですか?」なんて聞かれる事もあって、その度にカンちゃんを思い出してしまうけれど……。


「ええ。何だか楽しく新しい仕事に没頭しているみたいです」

結局会社に関係を明かさないまま離れ離れになったイトコの私の代わりに、篠塚さんが呆れたような――だけど、どこか愛おしそうな笑みを浮かべてそう答えるのだ。


私がカンちゃんの現状を知ることが出来るのは、そんな時くらい。

だけど昔よりは“知りたい”、“淋しい”と思う事も減ってきたし、このまま少しずつ、カンちゃんが望む“ただのイトコ”に戻っていけたらいいと思っていた。


けれど「事実は小説より奇なり」とはよく言ったもので……。


現実の世界というのは、私の想定をはるかに超えた予期せぬことを、平気な振りで突然引き起こす。

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