恋するキミの、愛しい秘めごと
私がいる事に、気が付いてる……?
「……」
ううん。
そんなはずない。
あの様子からすると、カンちゃんは気付いていない。
それなら……どうして。
どうしてカンちゃんは、あんな言葉をわざわざ述べたのか。
「やめてよ……」
――“日和”。
1年振りに彼の口から放たれた自分の名前は、自分でも驚くほどに心の中をかき乱す。
痛みさえ覚える、胸の強い鼓動に耐え切れずに会場を出ると、隣の部屋の光る星の前で足を止め、その大きな球体を見上げた。
例えこの原型になる物を、昔のカンちゃんが私のために作ったのだとしても、ここにいる人達はそんなこと知らないのだから。
あんな言葉を口にする必要なんてないのに。
見上げていた視線を下に落とすと、そこには金色のプレートが設置されていた。
「……“The weather planet”」
初めて知った、この“地球”の名前。
もしかしたらそれは、榊原さんが付けた名前なのかもしれないと一瞬思ったけれど。
『……の他にも、世界の様々な国の天気を表示することが出来る天体』――その説明書きを読んで、自分が貰った“小さな地球”にも、日本限定ではあったけれど、そんな機能が付いていた事を思い出した。
「てことは、カンちゃんが付けた名前か……」
プレートに落としていた視線を戻し、上を見たその時だった。
「――ヒヨ?」
「……っ」
後ろからかけられた声に、体がビクッと震えた。
手の平が一気に汗ばんで、何か言葉を発しないとと思うのに、驚きのあまり何を言えばいいのかが分からない。
それどころか、振り向くことさえ出来なくて……。
「同僚が『アジアンビューティーがいる!! 』ってはしゃいでたから来たのに」
「俺のトキメキを返せよ」なんて。
手をギュッと握りしめたまま立ち尽くす私に、その人は変わらない口調でそう言って、ひとり楽しそうに笑っている。
「……ゴメンね。何の変哲もない“ヒヨ”で」
だから私も、頬を膨らませながら返事をしたけれど。
もー、ホント何なの?
何で笑ってんの?
「っ……く」
「ヒヨ?」
私がどれだけ……。
「――カつく」
「は?」
「ムカつくって言ってるの!! 一体何なの!?」
私がここに来るまで、どれだけ悩んでいたと思ってるの!?
カンちゃんが日本からいなくなった時だって、私のせいなんじゃないかって自分を責めて、
「どうしていきなりいなくなるの!?」
「ヒヨ……」
「どうしてそんなに普通でいられるの!? 私が……私がどれだけ……っ」
ここに来るのだって、吐きそうなくらい緊張して。
それなのに――。
「トキメキとか、バカじゃないの!?」
暴言は、ほんのちょっとのカンちゃんへの怒りと、大部分はホッとして気持ちが緩んでしまった結果。
「ふざけないでよ!! 私がどんな想いで――」
止まらない涙を拭いもせず、目の前に立つカンちゃんを睨み上げると、さっきまで浮かべていた笑顔が苦しそうな表情に変わっていく。