恋するキミの、愛しい秘めごと

「こんな日に限って雪とか、ヒヨのせいだとしか思えないよな」

「……宮野さんに言われたくないんですけど」

後ろに立っていたのは、楽しそうに笑うカンちゃんで、その顔に思わず脱力する。

人の気持ちをあれだけ弄んでおいて、まるで何事もなかったかのようなこの態度。

ちょっと――いや、かなりムカつく。


「別に大変なら無理しなくて大丈夫ですよ? 私ひとりでも行けますし」

ニッコリ笑みを浮かべると、カンちゃんは「へっ!」と悪態をつく。

「宮野さんの仰る通り、榊原さんって王子様系だし」

「はいはい」

「来ないなら来ないで、全然大丈夫なので」

「……」

それに、眉を寄せたカンちゃんだったけれど、すぐにその表情を一変させて不適な笑みを浮かべた。


「南場さん」

「は、はい?」

突然の宮野さん降臨に、思わずたじろぐ。

「“全然大丈夫”っていう言葉は、正しい日本語じゃないよ?」

「……」

「“全然”っていうのは否定の言葉だから、それに肯定の“大丈夫”をつけるのはおかしいよね。その場合は“全然問題ありませんので”の方が――」

「わかりましたすみません私が間違えていましたっ!!」

こうなったら“お兄ちゃん”にとことん意地悪をしてやろうという私の目論見は失敗に終わり……。

それに満足気に笑ったカンちゃんは、「じゃー、また後で」とコーヒーを飲み干して戻って行った。


「……」

悔しい。
悔しすぎる。

何なんだあの男は!!

私ばっかり振り回されて。

「ホントムカつく」

ムカつく。

けど、何だかんだ言いながら、そんなカンちゃんから離れようとも、離れられもしない自分に一番腹が立つ……。
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