スーツを着た悪魔【完結】
綺麗で大きな瞳をした少年が、遊びたくて仕方なくて、長靴を履いて庭に飛び出す――。
まゆは蕩けそうなオペラを口に運びながら、うっとりとその景色を想像する。
目の覚めるような青葉と木漏れ日
彼の髪を揺らす風
肌を焼く太陽の光と、はしゃぐ子供たちの声――
幼い深青はどんな男の子だったんだろう?
間違いなく、今みたいに憎たらしくはないはず。いや、きっと天使のように可愛らしかったに違いない。
そんな、ほんの一瞬の、夢の煌めきに浸っているまゆに気付き、視線を向ける深青。
頬を傾け物思いにふけっているその姿は、なぜか深青にピカソの名画「夢」を思い起こさせた。
と言ってもあれは、ピカソが愛人マリー・テレーズをモデルに描いた、肘掛け椅子に座り眠る彼女の姿なのだけど。
優しく美しい配色。ピカソの愛が溢れたあの絵にまゆは似ている。
にしても食事の席だというのに、まさか目を開けたまま夢でも見ているのか。ガキみたいだな。
深青はふっと唇をほころばせる。