スーツを着た悪魔【完結】
けれどこれは……そう悪くない景色だ。
いつもは隠しているまろやかな頬、あごのライン、形のいい耳をすっきり見せた彼女は、別人のように魅力的だった。
チョコレートをかすかにつけた、アプリコットのような唇でさえ。
「まゆ」
名前を呼んで、彼女のあご先に手を伸ばす。
「っ……」
指先がふれるか触れないかのその瞬間、まゆはビクッと肩を揺らし、ぎこちなく目線を深青に向ける。
「な、に?」
「チョコレート、ついてる」
「え……」
見る見るうちに顔を赤く染めていくまゆ。
深青はそんなまゆを眺めながら、猫を慈しむようにあごの下に指を這わせ、親指で唇の端をぬぐった。
手を振り払われるかと思ったが、案外大人しくしている。
それをいいことに、深青は以前耳に触れたとき同様、この時間を楽しんでいた。
そしてそのうち、指先に感じる柔らかな彼女の肌に、そのまま手のひらを滑らせて、他のところに触れたいと感じていた。