スーツを着た悪魔【完結】

そんなまゆの緊張をよそに、彼は入口からまゆの背後を周って、反対側のソファーへと向かう。


そしてギシッと、皮がきしむ音――


座った……?


彼の正体を確かめるため、まゆは勇気を振り絞り、ゆっくりと顔を上げ彼を盗み見る。


恐ろしく長い足
膝の間で組んだ繊細な指先


もう、たったそれだけで――まゆは苦しいくらいの目まいに襲われていた。

少し薄暗い部屋の中でも、そこだけ自然と発光するようなオーラをまとっていた。


ああ、やっぱり……。そうだ。『彼』だ。


豪徳寺深青(ごうとくじみさお)!



「豪徳寺さん、お仕事お忙しいんですね~」

「雑誌で見ましたよっ♪ 今一番成功している青年実業家だって!」

「――いえ。家業を継いだだけで、成功だなんておこがましいですよ」



物腰柔らかに、優雅に微笑む彼は、周囲にたっぷりと愛想を振りまきながら、その輝きを隠そうともしない。


けれどその瞳は本当は笑ってはいなくて……


何も変わらない――

昔と、少しも……



< 14 / 569 >

この作品をシェア

pagetop