スーツを着た悪魔【完結】

青く、どこかとろりとしたリキュールをイメージさせる、深青の香り……。

深青を怒らせたこと、傷つけてしまったことを思い出して、乾いたはずの涙がまたにじんでしまう。


指先でそれを拭い歩いていると、アパートのすぐ前に、周囲には不似合な黒い外車が停車しているのに気付いた。


このあたりは住宅密集地で道路幅がそれほど広くない。

あんなところに停めていたら、前から来た車とすれ違えるかどうか……。


そんなことを考えながら、その車の横を通り過ぎようとしたまゆだったが、運転席のドアがガチャリと音を立てて開き、彼女の進行を阻む。


え……?


戸惑いながら立ち止まると、中からよく磨かれた靴と、ピンストライプのスーツのスラックスに包まれた長い足が、まゆの前に投げ出される。



「――」



その大きな影はゆっくりと車の中から出て、まゆの前に立ちはだかった。


すうっと目の前の景色が遠のく。

襲ってくる強い耳鳴りと、目眩。


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