スーツを着た悪魔【完結】
だって私は深青に意図的に黙っていた。
愛される資格はないのに、本当の私を見せないまま大事にされようとして……
そう、彼に可愛がってもらいたかった。
可愛いと言われたり、抱きしめられて、髪を撫でてもらって、キスをしてもらったり
一度でいいから、そんな風に愛されてみたかったんだ……。
だけどそんな勝手なこと神様が許すはずがない。
「お嬢ちゃん、着いたよ。大丈夫かい……?」
「えっ……あ、はい……ありがとうございました」
顔を窓の外に向けると、確かに見覚えのあるコンビニの側だった。
まゆはお札を出し、お釣りを受け取ると、タクシーを降りとぼとぼと歩きはじめる。
季節は春だというのに、風はひんやりと冷たい。
近くの家で金木犀を植えているらしい。むせかえるほどの香りにくらくらしながら、同時に深青の懐かしいすみれの香りを思い出していた。