スーツを着た悪魔【完結】

どうやら悠ちゃんの怪我は『階段から落ちた』ということになっているらしい。

普通の病院ならそううまくはいかないだろうが、ここが豪徳寺家の息がかかった、いや、豪徳寺家の一部だというのなら可能なんだろう。


でも、悠ちゃんが仕事を辞めて帰国してきたなんて嘘だ。

彼はヘッドハンティングされて、それで日本に戻って来たのだ。私にそう説明したし、名刺だって貰ったもの……。



「仕事、してるはずよ」

「え?」



バッグを開け、財布に差し込んでいた、以前悠馬から貰った名刺を取り出す。

けれどそこには悠馬の名前と、メールアドレス、携帯の番号が書いていあるだけだった。

会社の名前も部署も、所在地も、書いていない。



「ただの名刺じゃない」



メミに鼻で笑われて、まゆの手はひんやりと冷たくなった。


これはいったいどういうこと?

じゃあ、私にヘッドハンティングされて帰ってきたって言ったのは、ウソなの?



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