スーツを着た悪魔【完結】

胸の奥の心臓が、きゅうっとしめつけられる。

足元がグラグラして、倒れないよう気を張るのが精一杯だった。



「お兄ちゃんは優秀だから、自分で何かはじめるのかもしれないし、あんたが心配する必要なんかないわよ」



一方、話をさえぎられたメミは大きくため息をついたあと、深青にとびっきりの笑顔を浮かべた。



「ごめんなさい、どちらかというと私たち兄妹が面倒を見てるのに、まゆったらいつも頓珍漢な心配ばかりしていて……。それであの、もしよかったらこのあと――」



まゆがいるにもかかわらず、メミは自分が一番きれいに見える角度と笑顔で、堂々と深青を誘おうとしたのが

「まゆ」

深青はそんなメミからすっと視線を外し、どこか緊張したまゆの頬を指の背で撫でた。



「そんなに心配しなくてもいい」

「深青……」



不安に揺れるまゆは、深青の顔を仰ぎ見て、涙をこらえるように唇をかみしめる。



< 533 / 569 >

この作品をシェア

pagetop