塔の中の魔女
しかし、エカテリーナは生涯の最後、一度くらいはロゼリンに素直な態度で接してもよいと思った。
なにしろ、彼のお陰でこれまで目を瞑ってきた事実を知り得たのだから。
「ロゼリン、すまぬ。
わらわのせいでそなたまで命を落とすことに……」
しおらしいエカテリーナの言葉に、ロゼリンは意外なものを目にしたというように、まじまじと彼女を見て、
そして笑った。
死ぬことなど想像さえしていないような、快活な笑みだった。
「俺は悪運だけは強いんだ。
これで死ぬなら、それまでってことだな」
無数の蝙蝠と、駆け巡る稲妻によって、チカチカする視界の中で浮かべる彼の笑顔は、
エカテリーナに既視感を与えた。
――――なぜ?この者は血の繋がりがないと言っていたはず……。
エカテリーナは吸い込まれるようにロゼリンを凝視し、
過る懐かしの記憶とともに闇の底へと落ちていった。