夢の欠片
そして私の存在を旦那さんに紹介し始める。


「そうなのよ、ハンカチを濡らして貸してくれたの

それでね?花純美の手当てもしなきゃいけないし、ハンカチも洗って返したかったから、うちに遊びに来てもらったの」


「そうだったんだ

じゃあ俺からもお礼を言わなきゃな?」


そう言って旦那さんと思われる男性は、リビングの方からひょいと顔を出した。


私は挨拶をしようと、旦那さんの顔を見上げる。


その瞬間――


その顔を見て固まってしまった。


こんなことってあるんだろうか?


そこにはずっと会いたくて会いたくて仕方なかった、健の顔があった。


少しそれなりに老けたけれど、あの優しい笑顔は変わらない。


私は健の顔を見つめたまま、懐かしさと嬉しさでいっぱいになる。


あまりの衝撃に何も言えず私はただただ彼を見つめることしか出来なかった。


そんな私を、当の健は覚えているはずもなく、どうしたんだ?というように訝しげに見ている。


幼稚園児から急に中学生になってたら気づくはずがないことはわかっていた。


だから、奥さんや子供がいる前で、どう話せばいいのかわからずに視線をさ迷わせる。



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