夢の欠片
「君、名前は何て言うの?」


私の様子がおかしいことに気づいているはずなのに、彼は何事もなかったかのようにそう聞いてくる。


名前……


言ったら気づいてくれるかな?


そんな思いを胸に、一縷の望みをかけて、思いきって自分の名前を告げる。


「ひな……です」


思ったよりも掠れた小さな声が出てしまって、少しだけ動揺する。


健の方も私の名前を聞いて明らかに動揺していた。


「ひ……な?」


そう呟きながら、思いを巡らすかのように何か考えている。


それから幼い頃と今の私を重ね合わせているかのように、まじまじと私の顔を見つめた。


「もしかして……ひな……?」


ようやく合点がいったのか、そう私に問いかける。


私は思い出してくれたことが嬉しくて、胸がいっぱいで頷くことしか出来なかった。


次の瞬間、私は健の胸の中にいた。


抱き締められていることに気づくまでしばらく時間がかかる。


ようやくそうと気づいた私は、健が久しぶりに再会した自分を受け入れてくれたことに驚いた。


拒否されるかもしれないと思っていただけに、嬉しくて涙が出る。


そして昔、私が泣くとそうしてくれていたのと同じように、健はそっと優しく髪を撫でてくれていた。


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